環境委員会第222回 閣法 14賛成見込

公健法改正法案

公害健康被害の補償等に関する法律の一部を改正する法律案

LAST UPDATE

NOTEこの解説は小林修平が個人として発信するもので、チームみらいの公式見解とは異なることがあります。調査中の内容を含むため、誤りがあったり、内容を修正したりすることがあります。賛否は現時点でのもので、変わることがあります。

OVERVIEW

法案の概要

公害による健康被害で亡くなった人の遺族に支給する遺族補償費について、夫にだけ課されていた「60歳以上」の年齢要件を撤廃し、妻と同じく配偶者として受け取れるようにする法案である。

SIGNIFICANCE

法案の意義

  1. 01現状の課題

    遺族補償費の要件が、夫と妻で異なっている

    妻は年齢を問わず受け取れるが、夫は60歳以上でなければ受け取れない。女性の労働参加が進んだ今、この差に合理的な理由を見出すことが難しくなっている。

  2. 02法案の内容

    夫に課された「60歳以上」の年齢要件を削る

    遺族補償費を受けられる遺族の要件から、夫が60歳以上であるという要件を削り、「妻又は60歳以上の夫」を「配偶者」に改める。

  3. 03法案可決後に変わること

    夫も年齢にかかわらず遺族補償費を受けられるようになる

    令和9年4月1日から、生計を維持されていた夫は、妻と同じく年齢を問わず受給できる。先に改正された労災法と足並みがそろう。

POSITION

賛否と主な理由

賛成見込
  1. 妻は年齢を問わず受給できる一方、夫にだけ60歳以上の要件を課す規定は、共働き世帯が多数となった現在の就業構造にそぐわず、配偶者の性別による差を解消すべきである。

  2. 公健法の遺族補償費は労災法の考え方を参考に設計されており、すでに改正された労災法と同じ日に施行することで、制度間の整合性が保たれる。

  3. 改正は配偶者の要件に限られ、生計維持の要件は維持されるため、給付の趣旨を損なうことなく見直しを行える。

※ 政党内での議論や、委員会での審議を踏まえて、最終的な賛否を判断します。

※ 小林修平はこの委員会の委員ではないため、委員会の採決には加われません。賛否は本会議での採決に向けたものです。

SUPPLEMENTARY RESOLUTION

附帯決議の草案

  1. 経過措置の内容を明らかにし、施行日の前後で遺族の間に不合理な差が生じないよう配慮すること。
  2. 改正の内容を被認定者及びその家族に丁寧に周知し、新たに対象となる遺族が請求の機会を逃すことのないようにすること。
  3. 公健法以外の制度においても、配偶者に係る要件に夫婦間の差異が残っていないかを点検し、必要な見直しを速やかに行うこと。
  4. 遺族補償費の額に被認定者の性別による差が残ることを踏まえ、男女同額とすることを含め、算定方法の見直しを検討すること。
  5. 労災法との整合を図る観点から、障害の状態にある遺族に係る年齢要件の例外の導入を検討すること。
  6. 父母等に係る年齢要件について、他の法律における年齢区分や健康寿命の延伸を踏まえ、その在り方を検討すること。

EXPLAINER

法案の解説

01PROBLEM

現状の課題

遺族補償費の要件が、夫と妻で異なっている

公害健康被害の補償等に関する法律(公健法)の遺族補償費は、公害の健康被害を認定された人(被認定者)が、認定された疾病が原因で亡くなった場合に、その損害を補うため、遺族の請求に基づいて支給される。対象は、被認定者の死亡の当時(又は認定の申請の当時)に、その人によって生計を維持していた一定範囲の遺族である。

この遺族補償費は、制定当時、労働者の労働能力の損失を補償する労働者災害補償保険法(労災法)の考え方を参考に設計された。そのため改正前の労災法と同様に、受給できる遺族のうち夫と妻で要件が異なり、夫にだけ「60歳以上」の年齢要件が置かれている。

妻の場合

年齢を問わず受給できる

被認定者に生計を維持されていれば、何歳でも遺族補償費を受けられる。

夫の場合

60歳以上でなければ受給できない

生計を維持されていても、60歳未満であれば遺族補償費を受けられない。
  1. 制度創設時の考え方

    自ら独立して生計を営みうる年齢層の者は、補償の対象から除外する

  2. 就業構造の変化

    女性の労働参加が進み、共働き世帯が一般的になった

  3. 夫と妻の差に理由がなくなりつつある

    夫にだけ年齢要件を課す合理的な理由を見出すことが難しい

なぜ夫にだけ年齢要件があったのか

遺族補償費の要件は、制度の創設時から、(1) 被認定者の逸失利益と遺族固有の精神的損害が填補されるか、(2) 破壊された遺族の生活が回復されるか、という観点から定められてきた。そのうえで、通常は自ら独立して生計を営みうる年齢層の者を対象から除外しており、夫は60歳未満であれば自ら生計を営めるという前提に立っていた。

用語:被認定者・指定疾病・遺族補償一時金

被認定者:指定地域に一定期間住み、指定疾病にかかっているとして、申請に基づき都道府県知事等の認定を受けた人。

指定疾病:公健法の補償の対象となる疾病。大気汚染による気管支ぜん息など(旧第一種地域)と、水俣病・イタイイタイ病・慢性砒素中毒症(第二種地域)がある。

遺族補償一時金:遺族補償費の要件を満たす遺族がいない場合に、遺族補償費に代わって支給される一時金。

02THE BILL

法案の内容

夫に課された「60歳以上」の年齢要件を削る

遺族補償費を受けられる遺族の要件から、夫が60歳以上であるという要件を削る(第三十条関係)。「妻又は60歳以上の夫」を「配偶者」に改め、夫も妻と同じ要件で受給できるようにする。子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹の要件は変わらない。

順現行改正案
①妻又は60歳以上の夫配偶者
②60歳以上又は18歳未満の子60歳以上又は18歳未満の子
③60歳以上の父母60歳以上の父母
④60歳以上又は18歳未満の孫60歳以上又は18歳未満の孫
⑤60歳以上の祖父母60歳以上の祖父母
⑥60歳以上又は18歳未満の兄弟姉妹60歳以上又は18歳未満の兄弟姉妹
遺族補償費を受けられる遺族の範囲。変わるのは①の配偶者のみ。

改正する条文

第三十条

遺族補償費を受けることができる遺族の範囲を定める規定。

施行日

令和9年4月1日

改正労災法の施行日と同じ日に施行する(附則第一項)。

経過措置

必要な経過措置を定める

具体的な内容は、概要資料では示されていない。

03WHAT CHANGES

法案可決後に変わること

夫も年齢にかかわらず遺族補償費を受けられるようになる

夫の要件

これまで60歳以上であること
これから年齢を問わない(配偶者として受給できる)

60歳未満の夫

これまで遺族補償費を受けられない。ほかに要件を満たす遺族がいなければ遺族補償一時金
これから生計を維持されていれば、遺族補償費を受けられる

妻の要件

これまで年齢を問わない
これから年齢を問わない(変わらない)

生計維持の要件

これまで被認定者に生計を維持されていたこと
これから被認定者に生計を維持されていたこと(変わらない)

改正後も残る課題

給付額の男女差:遺族補償費の額は被認定者の逸失利益をもとに算定されるため、亡くなった被認定者が男性か女性かで月額11万円程度の差が残る。

障害による年齢要件の例外:労災法にある、一定の障害の状態にある遺族についての年齢要件の例外は、本法案では設けられていない。

父母などの年齢要件:子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹の年齢要件(60歳以上など)は、改正後もそのまま維持される。

04BACKGROUND

労災法の改正との関係

公健法の遺族補償費は、労災法の考え方を参考に設計された。その労災法で遺族補償年金の夫の年齢要件が撤廃されたことを受け、公健法も同じ日から同様に改める。

  1. 昭和48年

    公健法の制定

    労災法の考え方を参考に、遺族補償費の要件を定める。夫にのみ「60歳以上」の年齢要件を置く(昭和49年9月施行)。
  2. 令和8年7月17日

    改正労災法の公布

    遺族補償年金の受給権者のうち、夫に関する年齢要件を撤廃する。
  3. 今回

    本法案

    公健法の遺族補償費についても、労災法と同様に夫の年齢要件を撤廃する。
  4. 令和9年4月1日

    両法の施行

    改正労災法と改正公健法が同じ日に施行される。

05SYSTEM

公健法の仕組み

公健法は、公害健康被害の特殊性に鑑み、汚染者負担の原則を前提とし、民事責任を踏まえて、公害健康被害者を迅速かつ公正に保護するために昭和48年に制定された(昭和49年9月施行)。指定地域に一定期間住み、指定疾病にかかっているとして都道府県知事等の認定を受けた人が、補償の対象となる。

旧第一種地域

大気汚染による気管支ぜん息など

四日市、東京19区、川崎、尼崎など41地域が指定されたが、昭和63年にすべて解除された。解除前に認定を受けた人への補償は続いている。

第二種地域

原因物質との因果関係が明らかな疾病

水俣病(熊本県・鹿児島県・新潟県)、イタイイタイ病(富山県)、慢性砒素中毒症(宮崎県・島根県)。

25,446人

旧第一種地域

慢性気管支炎、気管支ぜん息など

286人

水俣病

41人

慢性砒素中毒症

現存被認定者数(令和8年3月末時点)。

補償給付の種類(7種類)

療養の給付及び療養費、障害補償費、遺族補償費、遺族補償一時金、児童補償手当、療養手当、葬祭料。本法案で改めるのは、このうち遺族補償費の支給要件である。

Q&A

想定される指摘点

9 件

  1. 男女差をなくすといいながら、給付額の男女差は残るのではないか。

    遺族補償費の額は被認定者の逸失利益をもとに算定されており、亡くなった被認定者が男性の場合(妻が遺族)と女性の場合(夫が遺族)とで、月額11万円程度の差がある。

    本法案が改めるのは受給できる遺族の要件のみであり、給付額の算定方法は変わらない。そのため、夫も年齢を問わず受給できるようになる一方、妻を亡くした夫が受け取る額は、夫を亡くした妻が受け取る額より月額11万円程度低いままとなる。要件の男女差を解消するという改正の趣旨に照らせば、額の男女差を温存することは一貫性を欠く。性別で逸失利益を換算する方法自体も、女性の労働参加が進んだ現在ではいささか乱暴である。対象者は限られるため、男女同額にしても財源への影響は大きくないとみられ、検討すべき選択肢である。

  2. 労災法との整合を図るなら、障害による年齢要件の例外も合わせるべきではないか。

    労災法の遺族補償年金では、一定の障害の状態にある遺族について、年齢要件の例外が設けられている。

    本法案は労災法との整合を改正の理由としているが、合わせたのは夫の年齢要件の撤廃のみであり、障害による年齢要件の例外までは合わせきっていない。父母や兄弟姉妹など年齢要件が残る遺族のうち、障害により自ら生計を営むことが難しい人が対象から外れることになるため、労災法と同様の例外を設けるべきかどうかを確認する必要がある。

  3. 父母の年齢要件を60歳のまま残すのは妥当か。

    本法案で改めるのは配偶者の要件のみであり、子・孫・兄弟姉妹は「60歳以上又は18歳未満」、父母・祖父母は「60歳以上」の要件がそのまま維持される。

    60歳以上の者を「自ら独立して生計を営みえない」とみなす前提は、雇用の延長が進んだ現在の就業実態と合わなくなっている。父母の年齢要件を65歳に引き上げれば、ほかの法律の年齢区分とも対照がとれる。さらにいえば、健康寿命が延びていることを踏まえ、年齢要件を固定の年齢ではなく健康寿命に対応したパラメータとして定める考え方もありうる。

  4. 施行日より前に亡くなった被認定者の遺族は、対象になるのか。

    施行は令和9年4月1日。概要資料では、経過措置について「必要な経過措置を定める」とあるのみで、内容は示されていない。

    一般に、遺族補償の受給資格は被認定者の死亡の時点で判断されるため、施行日前に死亡した場合は改正前の要件が適用される扱いが考えられる。その場合、施行日の前後で、同じ状況の夫でも受給の可否が分かれることになる。施行日前に死亡し、夫が60歳未満であったために遺族補償費を受けられなかった遺族(遺族補償一時金を受けた場合を含む)の扱いを、経過措置でどう定めるのかを確認する必要がある。

  5. 改正によって新たに対象となる人数と、財政への影響はどの程度か。

    現存する被認定者は、旧第一種地域で25,446人、第二種地域(水俣病・慢性砒素中毒症)で327人(令和8年3月末)。公健法の補償給付の費用は、汚染原因者である事業者からの賦課金で賄われている。

    新たに対象となるのは、被認定者が認定疾病に起因して死亡した場合に、その者に生計を維持されていた60歳未満の夫に限られる。被認定者の高齢化が進んでいることから人数は限られると見込まれるが、概要資料では対象者数や給付費の増加額の見込みは示されていない。費用を負担する事業者の賦課金への影響も含め、見込みを確認する必要がある。

  6. 同じように夫にだけ年齢要件を課している、ほかの制度はどうするのか。

    遺族補償年金の夫の年齢要件をめぐっては、地方公務員災害補償法の要件(55歳以上)を合憲とした最高裁判決(平成29年3月)がある。

    労災法が改正され、本法案で公健法も同様に改める。一方、公務員の災害補償制度など、労災法の考え方を参考にした制度はほかにもあり、夫婦で要件が異なる規定が残っている可能性がある。概要資料ではほかの制度の見直し状況には触れていない。政府全体として、夫婦間の要件の差異をどう解消していくのかを確認する必要がある。

  7. なぜ今、改正するのか。

    公健法の遺族補償費は、制定当時、労災法の考え方を参考に設計されたものである。その労災法が改正され、遺族補償年金の夫の年齢要件が撤廃された(令和8年7月17日公布、令和9年4月1日施行)。女性の労働参加の進展など就業構造の変化を受け、夫と妻の要件の差異に合理的な理由を見出すことが難しくなっており、労災法と同じ日に施行するよう改正する。

  8. そもそも、なぜ夫にだけ年齢要件があったのか。

    制度の創設時、遺族補償費は、被認定者の逸失利益と遺族固有の精神的損害を填補し、破壊された遺族の生活を回復させる観点から設計された。その際、通常は自ら独立して生計を営みうる年齢層の者を対象から除外しており、夫は60歳未満であれば自ら生計を営めるという前提で、夫にだけ年齢要件が置かれていた。

  9. 生計維持の要件は変わるのか。

    変わらない。遺族補償費を受けられるのは、被認定者の死亡の当時(又は認定の申請の当時)に、その者によって生計を維持していた遺族であることが引き続き必要である。夫の年齢要件がなくなっても、生計維持の要件を満たさなければ受給できない。