JOGMEC法改正法案
独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構法の一部を改正する法律案
LAST UPDATE
NOTEこの解説は小林修平が個人として発信するもので、チームみらいの公式見解とは異なることがあります。調査中の内容を含むため、誤りがあったり、内容を修正したりすることがあります。賛否は現時点でのもので、変わることがあります。
OVERVIEW
法案の概要
エネルギーと重要鉱物の調達を強くするため、JOGMEC の支援対象に、海外のパイプライン事業、バイオ等燃料の製造、廃バッテリーなどの製錬、CCS の4つを加える法案である。
SIGNIFICANCE
法案の意義
01現状の課題
資源・エネルギーの供給構造を強くする必要がある
中東情勢でホルムズ海峡が通りにくくなり、鉱物資源の重要性も一層高まっている。調達ルートや調達先を広げる備えが求められている。
02法案の内容
JOGMEC の業務に4つの支援を追加する
原油等の輸送事業、海外のバイオ等燃料製造、金属再生資源の製錬への出資・債務保証と、CCS への助成金の交付を可能にする。
03法案可決後に変わること
国が後押しできる分野が広がる
有事の代替輸送ルートの確保、燃料・重要鉱物の調達先の多角化、CCS の事業化を、JOGMEC が支援できるようになる。
POSITION
賛否と主な理由
中東情勢の悪化時に、ホルムズ海峡を通らないパイプラインが有効に機能した。こうした代替ルートへの日本企業の参加を支えることは、エネルギー安全保障上の意義が大きい。
重要鉱物の供給源の多角化は経済安全保障上の課題であり、廃バッテリーなどからの金属回収を支援対象に加えることは時宜にかなう。
CCS はコストが炭素価格を上回り民間だけでは事業化が難しい。差額に着目した支援と支援終了後の事業継続義務の組み合わせは、事業化を後押しする仕組みとして妥当である。
※ 政党内での議論や、委員会での審議を踏まえて、最終的な賛否を判断します。
SUPPLEMENTARY RESOLUTION
附帯決議の草案
- 出資・債務保証の案件審査及びリスク管理の体制を強化し、損失が生じた場合の対応方針を明らかにすること。
- 原油等の輸送事業への出資・債務保証に当たっては、有事における代替輸送経路の優先利用権の実効性を確認し、その確保状況を国会に報告すること。
- CCS への助成金については、支援総額の見通し及び財源を明らかにするとともに、証拠に基づく政策立案(EBPM)の観点から、CO2 の削減効果や CCS の普及の状況を不断に検証し、その結果を国会に報告すること。
- 出資・債務保証及び助成金に係る資金の流れを確認し、毎年度公表すること。
EXPLAINER
法案の解説
01PROBLEM
現状の課題
資源・エネルギーの供給構造を強くする必要がある
今回の中東情勢への対応や、鉱物資源の重要性が一層高まっていることを踏まえ、資源・エネルギーの供給構造を強くすること(強靱化)が求められている。
中東情勢
ホルムズ海峡が通航困難に
教訓
海峡を通らないパイプラインが機能
鉱物資源
重要鉱物の供給源の多角化
02THE BILL
法案の内容
JOGMEC の業務に4つの支援を追加する
JOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構)は、資源の確保に取り組む民間企業を、出資や債務保証などお金の面から後押しする国の機関である。今回、その業務に次の4つを追加する。
出資・債務保証
① 原油等の輸送事業
出資・債務保証
② バイオ等燃料の製造
出資・債務保証
③ 金属再生資源の製錬
助成金
④ CCS
用語:出資・債務保証
出資:事業にお金を出して、株主として参加すること。
債務保証:事業者が銀行などからお金を借りるときに、返済を保証すること。事業者は資金を借りやすくなる。
用語:CCS
CCS:Carbon dioxide Capture and Storage の略で、日本語では「二酸化炭素の回収・貯留」。発電所や工場から出る CO2 を集めて地下深くに閉じ込め、大気中に出さないようにする技術である。化石燃料を使いながら CO2 の排出を減らす手段とされる。
03WHAT CHANGES
法案可決後に変わること
国が後押しできる分野が広がる
原油等の輸送事業(パイプライン等)
海外のバイオ等燃料製造
製錬事業
CCS
04BYPASS ROUTES
① 原油等の輸送事業
ホルムズ海峡が通れなくなったとき、海峡の外にあるヤンブー(紅海側)やフジャイラ(オマーン湾側)の港から原油の輸出が続いた。日本企業がこうした輸送事業に参加し、有事にも代替輸送経路を優先的に利用する権利を得られるよう、JOGMEC がパイプラインなどの輸送事業への出資・債務保証で支える。
- 既存のパイプライン
- 新設中のパイプライン
- 海峡の外の積出港
- 海峡を通る従来の航路
05FUELS & METALS
② バイオ等燃料 ③ 金属再生資源
② バイオ等燃料
海外での製造事業を支える
国内外の規制などを背景に、バイオ等燃料の国内での需要が増えると見込まれている。
安定して、しかもコストを抑えて調達できるよう、海外での製造事業に出資・債務保証する。
③ 金属再生資源
リサイクルの製錬も支援の対象に
重要鉱物の供給源を多角化するため、これまでの金属鉱物に加え、廃バッテリーなどの使用済みの原料(金属再生資源)を処理する製錬事業などにも出資・債務保証する。
06CCS
④ CCS への助成金
CCS(二酸化炭素の回収・貯留)は、発電所や工場から出る CO2 を集めて運び、地下深くに閉じ込める取組である。化石エネルギーを有効に使いながらエネルギー供給を強くし、日本の GX 製品を世界の市場に広げることにもつながる。CCS にかかるコストは炭素価格を上回るため、その差に着目して支援する。
分離・回収
発電所や工場の排ガスから CO2 を分離して集める
輸送
集めた CO2 をパイプラインや船で貯留地まで運ぶ
貯留
地下深くの地層(枯渇したガス田や帯水層など)に圧入し、閉じ込める
15年間
支援の期間
10年間
支援終了後の事業継続義務
- 基準価格(CCS にかかるコスト)
- 参照価格(炭素価格)
CCS 支援のしくみ
基準価格は CCS にかかるコスト、参照価格は炭素価格を指す。参照価格までは民間が負担し、基準価格との差に着目して支援する。
助成金は、経済産業大臣が定めた交付基準に基づいて JOGMEC が交付する。
Q&A
想定される指摘点
10 件
CCS への支援を、ほかの3項目と一括で改正する合理性はあるのか。
①〜③は調達の多角化に向けた出資・債務保証、④は CCS のコストと炭素価格の差を15年間補填する助成金である。
4項目はいずれも「資源・エネルギー供給構造の強靱化」を目的に、JOGMEC の業務を追加する改正として一つの法案にまとめられている。ただし、①〜③が中東情勢を受けた調達の多角化であるのに対し、④は脱炭素に向けた長期の価格差補填であり、目的、支援の手法、財政負担の性質がいずれも異なる。別の法案として審議する選択肢もありえたため、一括にした理由を確認する必要がある。
パイプライン等の輸送事業への出資・債務保証は、本当に必要か。財政負担はどの程度か。
中東情勢の悪化時には、サウジアラビアや UAE のホルムズ海峡を通らないパイプラインが代替ルートとして機能した。日本企業がこうした事業に出資して権利を持てば、有事に優先して利用できるようになる。地政学的なリスクが大きく民間だけでは資金を集めにくいため、JOGMEC が出資・債務保証でリスクを分担する。一方、出資・債務保証の規模や財源、損失が出た場合の負担の見込みは概要資料では示されていない。
JOGMEC に、新しい業務を担う体制と能力はあるのか。
多角化法案による納付金の徴収・管理・交付は、JOGMEC にとって新しい業務である。本法案でも業務が4つ増える。
JOGMEC は、石油・天然ガスや金属鉱物の開発への出資・債務保証、石油の国家備蓄の管理などを担ってきた実績がある。一方、業界から資金を集めて交付する業務は性質が異なり、本法案の4項目も加わるため、徴収・審査・交付を担う人員と体制、資金の管理と透明性の確保が課題となる。体制整備の具体的な計画は概要資料では示されていない。
CCS 事業は今どこまで進み、どこまで広がる見込みか。エネルギー投資の領域としてどう位置付けるのか。
概要資料では、CCS を、化石エネルギーの有効利用によるエネルギー供給の強靱化と、日本の GX 製品の世界市場への展開を可能にするものと位置付け、事業化に向けて価格差に着目した支援を行うとしている。国内では2024年に CCS 事業法が成立し、政府は2030年までの事業開始を目指している。CCS はコストが炭素価格を上回るため、当面は公的な支援なしに民間投資が進みにくい領域である。
出資・債務保証で損失が出たら、国民の負担にならないか。
出資・債務保証には損失のリスクが伴う。案件ごとの審査体制やリスク管理、損失が出た場合の扱いは確認すべき論点である。
パイプラインへの出資で、有事の優先利用権を本当に確保できるのか。
法案の目的は、日本企業が有事にも代替輸送経路を優先的に利用する権利を取得するのを支援することである。権利の実効性は個別案件の契約内容によるため、案件ごとに確認が必要である。
CCS への支援は、化石燃料の延命にならないか。
概要資料では、CCS を化石エネルギーの有効利用によるエネルギー供給の強靱化と、日本の GX 製品の世界市場への展開を可能にするものと位置付けている。CO2 の削減とエネルギーの安定供給を両立させる手段とされている。
CCS の助成金の総額と財源はどうなるのか。
総額や財源は概要資料では示されていない。貯留開始後 15 年間の支援であり、長期の財政負担になるため確認が必要である。
支援が終わった後に、事業が止まらないか。
支援終了後、分離回収事業者と輸送貯留事業者の双方に 10 年間の事業継続義務が課される。
海外のバイオ等燃料製造を支援しても、国内産業は育たないのではないか。
この支援の目的は、国内で需要が増えるバイオ等燃料を安定的に、コストを抑えて調達することである。国内での製造支援は本法案の範囲外である。