経済産業委員会第222回 閣法 12賛成見込

原油等輸送保険法案

特定貨物保険契約及び特定船舶保険契約の履行の確保に関する特別措置法案

LAST UPDATE

NOTEこの解説は小林修平が個人として発信するもので、チームみらいの公式見解とは異なることがあります。調査中の内容を含むため、誤りがあったり、内容を修正したりすることがあります。賛否は現時点でのもので、変わることがあります。

OVERVIEW

法案の概要

外国政府などが再保険を禁止しても原油などを運ぶ船に保険をかけ続けられるよう、国内の保険会社が払いきれない損害を政府が肩代わりする仕組みをつくる法案である。

SIGNIFICANCE

法案の意義

  1. 01現状の課題

    再保険が使えなくなると、原油を運ぶ船の保険がかけられない

    外国政府などが海外の保険会社による再保険の引受けを禁止すると、国内の保険会社だけでは必要な保険を引き受けきれず、輸入が難しくなる。

  2. 02法案の内容

    国内の保険会社が払いきれない部分を、政府が交付金で補う

    保険会社と政府が契約を結び、支払予定総額を超える損害・費用を政府が交付金で出す。保険会社は政府に手数料を払う。

  3. 03法案可決後に変わること

    再保険が禁止されても、原油等の輸送に必要な保険を続けられる

    貨物や船の所有者は、これまでどおり国内の保険会社と契約したまま、必要な保険を確保できる。

POSITION

賛否と主な理由

賛成見込
  1. 再保険の引受け禁止により、海上輸送に必要な保険を確保できず、輸入が難しくなる状況が実際に生じた。エネルギーの安定供給のために対応が必要である。

  2. 政府の負担は支払予定総額を超える部分に限られ、最大交付金額の上限もある。保険会社から手数料も納付されるため、負担に歯止めがある。

  3. 発動は再保険が禁止される事態に限られ、通常時の民間保険市場への影響は小さい。

※ 政党内での議論や、委員会での審議を踏まえて、最終的な賛否を判断します。

SUPPLEMENTARY RESOLUTION

附帯決議の草案

  1. 最大交付金額の規模及び財源の手当てを明らかにし、政府の財政負担の見通しを国会に報告すること。
  2. 手数料の水準は、政府が引き受けるリスクに見合ったものとなるよう設定し、その考え方を公表すること。
  3. 「特定国産原油等」の範囲及び制度を発動する判断基準を明確にし、発動した場合には速やかに国会に報告すること。

EXPLAINER

法案の解説

01PROBLEM

現状の課題

再保険が使えなくなると、原油を運ぶ船の保険がかけられない

船の運航では、予期せぬ事故で大きな損失や賠償責任が生じることがあるため、海上財物保険(貨物保険・船舶保険)が欠かせない。日本では国内の損害保険会社が提供するのが一般的だが、リスクが巨額になるため、国内の損保だけでは引き受けにくい部分は、海外の保険会社の再保険を買って対応するのが通例である。

今回の中東情勢の変化への対応では、外国政府などが海外の保険会社による再保険の引受けを禁止する措置をとり、海上輸送に必要な保険を確保できず、必要な物資の輸入が難しくなる状況も生じた。

  1. 外国政府などが禁止

    海外の保険会社に、再保険の引受けを禁止する措置をとる

  2. 再保険が使えない

    国内の保険会社が、大きなリスクを海外に回せなくなる

  3. 保険を引き受けきれない

    海上輸送に必要な保険キャパシティが足りなくなる

  4. 輸入が難しくなる

    保険がかけられず、原油などを運べなくなるおそれ

用語:海上財物保険・再保険・保険キャパシティ

海上財物保険:運んでいる貨物の損害に備える「貨物保険」と、船そのものの損害に備える「船舶保険」をあわせた呼び方。

再保険:保険会社が引き受けたリスクの一部を、さらに別の保険会社に引き受けてもらう仕組み。「保険会社のための保険」といえる。

保険キャパシティ:保険市場全体として引き受けられるリスクの量。いわば「保険の引受け枠」である。

02THE BILL

法案の内容

国内の保険会社が払いきれない部分を、政府が交付金で補う

貨物・船舶の所有者

荷主や船主

保険の契約

保険金

国内の損害保険会社

法案上は「特定海上財物保険者」

手数料

交付金

政府

経済産業大臣

紫の矢印はふだんの流れ、青の矢印は損害が出たときの流れを示す。
  1. 国内の損害保険会社貨物・船舶の所有者

    ふつうの保険契約を結ぶ

    通常の海上財物保険(貨物保険・船舶保険)の契約を結ぶ。
  2. 国内の損害保険会社政府

    保険会社と政府が契約を結ぶ

    一定期間内の運航で生じる損害・費用のうち、保険会社の支払予定総額を超える金額を政府が出すことを約束する契約(特定海上財物保険履行確保契約)を結ぶ。
  3. 国内の損害保険会社政府

    保険会社が政府に手数料を払う

    上の契約に基づいて、手数料を納める。
  4. 損害が出たとき

    政府国内の損害保険会社

    政府が交付金を出す

    保険会社の支払予定総額を超える金額を、交付金として出す。
  5. 国内の損害保険会社貨物・船舶の所有者

    保険会社が保険金を払う

    自社の支払分と政府からの交付金をあわせて、所有者に保険金を支払う。

03WHAT CHANGES

法案可決後に変わること

再保険が禁止されても、原油等の輸送に必要な保険を続けられる

再保険が禁止されたとき

これまで国内の保険会社だけでは引き受けきれず、保険の締結・継続が難しい
これから支払予定総額を超える部分を政府が交付金で補い、保険を続けられる

貨物・船舶の所有者の契約相手

これまで国内の損害保険会社
これから国内の損害保険会社(変わらない)

保険会社の負担

これまで大きなリスクは海外の再保険に回す
これから支払予定総額まで負担し、政府に手数料を払う

海外の再保険が使えないと、国内の保険会社が引き受けきれない部分が残る。

引き受け手がいない

保険がかけられず、輸送が難しくなる

国内の損害保険会社

04SCOPE

対象となる場面

対象の荷物

日本に運ぶ原油等

原油、石油製品、液化天然ガス(LNG)。エネルギー安全保障の観点から重要なものとされている。

使われる場面

外国政府などが再保険を禁止したとき

外国政府などが、特定国産原油等を対象として、海外の保険会社による再保険の引受けを禁止する措置をとった場合。

政府が出す範囲

支払予定総額を超える部分

その運航に伴って一定期間内に生じる損害・費用のうち、国内の保険会社の支払予定総額を超える金額。

法案に出てくる用語

特定海上財物保険者:この制度の対象となる保険を引き受ける保険会社。国内の損害保険会社が想定されている。

特定貨物保険契約・特定船舶保険契約:保険会社と貨物・船舶の所有者が結ぶ、この制度の対象となる保険契約。

特定海上財物保険履行確保契約:保険会社と政府が結ぶ契約。支払予定総額を超える損害・費用を政府が交付金として出し、保険会社は手数料を納める。

Q&A

想定される指摘点

7 件

  1. 発動はどこまで予見でき、どのような場面を想定しているのか。

    発動の要件は、外国政府などが再保険の引受けを禁止する措置をとること。対象となる国は政令で定め、契約の前に内閣総理大臣・外務大臣・財務大臣と協議する。

    想定しているのは、外国政府などが制裁として、日本に運ぶ原油等を対象に海外の保険会社による再保険の引受けを禁止する場面である。2012年に欧州連合(EU)がイラン産原油の輸送に関わる保険を禁止した際、日本は特別措置法で政府が補償を肩代わりした経験があり、本法案はこれを踏まえた設計とされる。平時は従来どおり民間の再保険で対応し、本制度は使われない。一方、どの国のどの措置を対象として政令で指定するのか、その判断基準は概要資料では示されておらず、予見性を高めるには基準を明らかにする必要がある。

  2. 年度末まで数か月しかないのに、なぜ約8,900億円の枠を設けるのか。

    施行は公布から3か月以内。附則で令和8年度の交付金の総額の上限を8,913億3,880万9,685円と定め、契約期間は契約を結んだ年度の末日までとしている。

    この額は予算として支出が見込まれる額ではなく、損害が出たときに政府が払いうる上限の枠である。枠はタンカーや積荷の価値、賠償の大きさと、同時に保護する隻数をもとに積み上げたものと考えられるが、算定の前提は示されていない。また契約期間が年度末までのため、年度をまたぐ航海の保護に切れ目が生じないかも論点となる。算定の前提、令和9年度以降の枠の考え方、年度をまたぐ航海の扱いを明らかにする必要がある。

  3. 政令で定める手数料の水準は、有事に機能するものになるか。

    手数料は、再保険料の国際的な水準を勘案して政令で定める。しかし制度が発動するのは、国際的な再保険市場が機能していない局面である。

    手数料が高すぎれば保険料に上乗せされて輸入の妨げになり、低すぎれば保険会社や輸入事業者への実質的な補助となる。発動時に勘案する「国際的な水準」が何を指すのかは明らかでなく、有事でも機能する算定方法と、国際的な水準のほかに勘案する事項を示す必要がある。政府の支払見込みが示されなければ、手数料が負担に見合っているかも判断できない。

  4. 禁止措置がなくても、民間の再保険が撤退した場合に機能するのか。

    本年の中東情勢では、政府による禁止措置ではなく、戦争リスクを理由とする保険料の高騰や引受けの縮小によって海上輸送が細った局面があった。

    本法案の発動要件は外国政府などによる禁止措置に限られており、民間の保険会社が自らの判断で引受けをやめた場合には発動しない。米国には、商業保険が合理的な条件で得られない場合に政府が戦争保険を引き受ける常設の制度があり、本年3月には政府系の開発金融公社が湾岸地域の海上再保険の枠組みを打ち出している。市場起因の保険途絶にどう備えるかは、本法案の対象外の課題として残る。

  5. 政府が巨額の損失を負うことにならないか。

    政府が出すのは国内の保険会社の支払予定総額を超える部分で、契約で定めた最大交付金額が上限となる。令和8年度の交付金の総額の上限は附則で約8,913億円と定められている。保険会社は政府に手数料を納める。

  6. 民間の保険市場をゆがめないか。

    再保険が禁止される事態に限った特別措置であり、通常時の保険・再保険の取引には介入しない。貨物・船舶の所有者の契約相手も国内の保険会社のまま変わらない。

  7. 原油等以外の重要物資は対象にならないのか。

    対象は原油、石油製品、液化天然ガス(LNG)で、エネルギー安全保障の観点から重要なものに絞られている。ほかの物資への拡大は本法案の範囲外である。