原油等調達多角化法案
原油等の安定的な輸送の確保のための指定水路の利用の合理化に関する法律案
LAST UPDATE
NOTEこの解説は小林修平が個人として発信するもので、チームみらいの公式見解とは異なることがあります。調査中の内容を含むため、誤りがあったり、内容を修正したりすることがあります。賛否は現時点でのもので、変わることがあります。
OVERVIEW
法案の概要
ホルムズ海峡に頼らない原油の輸送ルートを平時から確保するため、迂回にかかる追加費用を石油業界全体で出し合い、ルートを分散する事業者に配る仕組みをつくる法案である。
SIGNIFICANCE
法案の意義
01現状の課題
ホルムズ海峡に頼る原油輸送のリスクが表面化した
原油タンカーが長期間、事実上ホルムズ海峡を通れなくなった。特定の輸送ルートに依存するリスクが現実になった。
02法案の内容
ルートを分散する事業者に交付金を出し、財源は業界の納付金でまかなう
計画の認定を受けた事業者に JOGMEC が交付金を出す。その原資は、石油会社などがガソリンなどの販売量に応じて納める納付金である。
03法案可決後に変わること
平時から輸送ルートと調達先を分散しておけるようになる
海峡の外の港やほかの地域を使う追加コストを業界全体で分け合い、危機時と平時のリスク・コストを平準化する。
POSITION
賛否と主な理由
ホルムズ海峡が長期間通れなくなり、特定の輸送ルートに依存するリスクが現実に顕在化した。危機が起きてからではなく、平時からの備えが必要である。
迂回の追加コストを個社任せにすると分散が進みにくい。業界全体で負担を分け合う仕組みにより、ルートの分散を後押しできる。
納付金の単価は審議会の意見を聴いて定め、上限も政令で定めるため、負担が際限なく膨らまない設計になっている。
※ 政党内での議論や、委員会での審議を踏まえて、最終的な賛否を判断します。
SUPPLEMENTARY RESOLUTION
附帯決議の草案
- 納付金の単価の設定に当たっては、ガソリン等の小売価格を通じた国民負担への影響を十分に考慮し、その算定根拠を公表すること。
- 交付金が特定の事業者に偏ることのないよう、計画認定の基準及び交付実績を公表し、制度の透明性を確保すること。
- 実施指針に定める目標の達成状況を定期的に検証し、その結果を国会に報告すること。
EXPLAINER
法案の解説
01PROBLEM
現状の課題
ホルムズ海峡に頼る原油輸送のリスクが表面化した
今回の中東情勢の変化で、原油タンカーが事実上ホルムズ海峡を通れない状況が長く続いた。1つのルートに依存していると、そこがふさがったときに調達が一気に滞る。危機が起きてからではなく、平時のうちに調達先や輸送ルートを分散しておく必要がある。
海峡に頼るルート
海峡が通れなくなると、ここで止まる。
分散の例1:パイプラインで海峡の外へ
海峡の外にある積出港までパイプラインで運び、そこから船に積む。
分散の例2:別の地域から買う
調達先を複数の地域に分けておけば、1か所が止まっても影響を抑えられる。
ホルムズ海峡と「指定水路」について
ホルムズ海峡は、ペルシャ湾の出口にある狭い海峡である。ペルシャ湾の沿岸から原油を積み出す船は、ここを通って外洋に出る。
この法案では、日本への原油等の輸送で通る水路のうち、代わりの水路で運ぶのが難しい狭い水路を「指定水路」と呼ぶ。ホルムズ海峡を政令で指定することが想定されている。法案の名前にある「指定水路の利用の合理化」とは、この水路への依存を減らしていくことを指す。
02THE BILL
法案の内容
ルートを分散する事業者に交付金を出し、財源は業界の納付金でまかなう
責務
事業者と政府の責務を定める
支援
交付金でルート分散を後押し
財源
納付金で業界が出し合う
原油精製業者等
石油元売り・石油化学メーカー・商社など
納付金
JOGMEC
集めて管理し、交付する
交付金
計画の認定を受けた事業者
ルートの分散に取り組む原油精製業者等
03WHAT CHANGES
法案可決後に変わること
平時から輸送ルートと調達先を分散しておけるようになる
輸送ルート
迂回にかかる追加費用
支援の財源
国の関与
04SUPPORTED ACTIONS
支援の対象となる取組
取組の例 1
パイプラインで海峡の外の港へ
産地から、海峡の外にある積出港までパイプラインで運び、そこから船に積む。
支援の対象:パイプラインの使用料、追加でかかる船の輸送費
取組の例 2
複数の地域から分けて買う
原油の調達先を複数の地域に分け、1か所に頼らないようにする。
支援の対象:遠くの積出港から運ぶ船の輸送費
05LEVY
納付金の決まり方
国内で販売・使用した量
指定石油製品の量
ガソリン・灯油・軽油・重油など
国が決める
納付金の単価
上限は政令で決める
JOGMEC に納める
納付金
単価
政府が、審議会の意見を聴いて決める
上限
輸送費の差額がもとになる
管理
JOGMEC が集めて管理する
「指定石油製品」とは
納付金の計算のもとになる石油製品で、次の4種類が対象となる。
揮発油(ガソリン、ナフサ)、灯油(ジェット燃料を含む)、軽油、重油
06PROCEDURE
手続きと役割
政府(経済産業大臣)
政府が「実施指針」をつくる
指定水路への依存を減らすための目標や、交付金の基本的な事項などを定める。原油精製業者等政府
事業者が計画をつくり、認定を受ける
目標、対象の原油等の種類、航路、計画期間などを書いた「指定水路利用合理化計画」をつくる。政府は実施指針に照らして認定する。JOGMEC認定を受けた事業者
JOGMEC が交付金を出す
JOGMEC が交付のルール(交付規程)をつくり、経済産業大臣が認可する。そのルールに基づいて交付金を出す。原油精製業者等JOGMEC
石油会社などが納付金を納める
国内で販売・使用するガソリンなどの量に応じて納める。JOGMEC
JOGMEC が納付金を集めて管理する
集めた納付金が、交付金の原資となる。
| 立場 | 役割 |
|---|---|
| 政府(経済産業大臣) | 必要な施策をつくる責務を負う。実施指針をつくる。事業者の計画を認定する。JOGMEC の交付規程を認可する。納付金の単価を決める。 |
| JOGMEC | 交付規程をつくる。交付金を出す。納付金を集めて管理する。 |
| 原油精製業者等 | 適切な措置を講じる責務を負う。計画をつくって認定を受け、交付金を受け取る。販売・使用量に応じて納付金を納める。 |
※「原油精製業者等」とは、原油精製業者と、指定石油製品の輸入業者を指す。石油元売り、石油化学メーカー、商社などが想定されている。
Q&A
想定される指摘点
9 件
納付金が入るまでの間、交付金は何で賄うのか。
施行は公布から6か月以内だが、納付金の徴収は2028年4月1日から。10月6日の事前資料には「拠出金に政府資金を加え」とあったが、条文に国費を入れる規定はない。
政府の概要資料では、交付金の原資は納付金とされており、徴収開始前の財源には触れていない。考えられるのは、(1) 予算措置で政府資金を JOGMEC に入れる(条文に明記がなくても予算で手当てする)、(2) JOGMEC が借入れなどで立て替え、後から納付金で返す、(3) 徴収開始までは交付を行わない、のいずれかである。事前資料に「政府資金を加え」とある以上、(1) が想定されている可能性が高いが、その根拠と規模は確認が必要である。
ホルムズ海峡への依存は下がっても、中東への依存は下がらないのではないか。
事前資料の代替ルートは、ヤンブー(紅海側)やフジャイラまでパイプラインで運ぶ形が中心。中東への依存は94%にのぼる。
この法案の直接の目的は、ホルムズ海峡(指定水路)への依存を下げることであり、中東への依存そのものを下げることではない。ただし交付金の対象には、パイプラインで海峡の外の港へ運ぶ取組だけでなく、「複数地域からの分散調達(遠方の積出港からの船舶輸送費)」も挙げられており、中東以外からの調達を増やす取組も支援の対象になりうる。海峡の回避は短期の有事対応、調達先の分散は中長期の課題として、両方に使える制度と説明できる。
納付金は価格をどの程度押し上げるのか。
納付金は実質的に新たな「準税」であり、ガソリン・灯油・軽油などの価格に転嫁され、国民が広く負担することになる。
納付金がかかるのはガソリン・灯油・軽油・重油などの石油製品の販売・使用量であり、影響が出るのは原油価格ではなく、これらの製品の小売価格である。単価の上限は「ホルムズ海峡を通る航路とそれ以外の航路の輸送費の差」をもとに政令で定め、単価は審議会の意見を聴いて政府が決めるため、影響は最大でもその輸送費の差の範囲に収まる設計である。1リットルあたりの金額の見込みは、政府の概要資料では示されていない。
平時から割高なルートを使い続け、効果も見えにくくならないか。
政府が実施指針で目標を定め、事業者の計画にも目標を記載する仕組みである。目標の達成状況をどう検証し、公表するかは確認すべき点である。
納付金は全体でどの程度の規模になるのか。
政府の概要資料には、納付金の総額や単価の見込みは示されていない。仕組み上、総額は「単価 × 国内で販売・使用される指定石油製品(ガソリン・ナフサ・灯油・ジェット燃料・軽油・重油)の量」で決まる。対象となる量は年間1億キロリットルを超える規模とみられるため、仮に単価が1リットルあたり1円なら、年間1,000億円を超える規模になる計算である(対象量は統計で要確認)。単価の上限は輸送費の差をもとに政令で決まるため、規模感をつかむには上限額の想定を確認する必要がある。
多角化の効果をどう測り、どう確認するのか。
政府の概要資料では、政府が実施指針で「指定水路の利用の合理化に関する目標」を定め、事業者もその目標を書いた計画をつくって政府の認定を受ける仕組みになっている。目標を立てる枠組みはあるが、達成状況をどの指標で測り、誰がどの頻度で確認し、どう公表するかは示されていない。
なぜ国費ではなく、業界の納付金を財源にするのか。
迂回にかかる追加コストを業界全体で分け合い、ルートの分散に取り組む事業者だけが不利にならないようにするためである。危機時と平時のリスク・コストを平準化する制度として設計されている。
交付金が一部の大手事業者に偏らないか。
交付金は、実施指針に照らして認定された計画に基づき、経済産業大臣が認可した交付規程に沿って交付される。認定基準や交付規程の中身、交付実績の公表の有無は今後確認すべき論点である。
指定水路はホルムズ海峡に限られるのか。
指定水路は政令で指定し、ホルムズ海峡を想定している。定義上は「代替の水路による輸送が困難な狭い水路」であり、将来ほかの水路が指定される余地はある。